◇
手のひらを上にして、「どうぞ」のポーズをすると、手のひらからは、みるみるどんぐりのようなものがあふれ出し、「つばさのないとり」の目の前に、次から次へとこぼれ落ちた。
「さあ、しあわせの種よ。」
まるで女王様のような口調で、少しおどけて言った。そのからだは、ぼんやりと光っている。
「そろそろ、みはらし台でお願いできないかな?」
しあわせの種を、くちばしで器用にひろいながら、「つばさのないとり」は少しおこっているようだ。
「いやよ、もう何も見たくないし、何も聞きたくないの。花もかれてばっかりだし、もういや。」
そう言いながら、ぷいっと後ろを向いてしまった。
月は、すべてを見て、聞いている。みんなの良いことも悪いこともすべて。
「種を持って、早く行ってちょうだい。」
「つばさのないとり」は、ふうっと、ため息をついて、散らばったしあわせの種をひろい集めている。
月の光が出てる時、月はしあわせの種をみんなにまいている。月の光を浴びることで、その種は心に根付く。良いことをたくさんすれば、やがて芽を出して花がさく。しあわせの花には、しあわせがどんどん寄ってくる。でも、あまり悪いことばかりしていると、さかないでかれてしまうのだ。
月の子は、そんなかれてしまう花を、ずっと見てきた。そしてついに、もう見たくないと言ったきり、部屋にこもってしまったのだ。
「つばさのないとり」は、しかたなくみはらし台に立ち、くちばしで種をくわえ、右へ左へばらまき出した。
「さあよ、さあよ。つきのかげを、ひとめみよ。なんにみえよか、なんにみえよか。さあよ、さあよ。」
そんな月の歌をうたいながら。
「トギス、まだ月んこは、やんねのか?」
手伝いをしていたもう一羽の「つばさのないとり」が、心配そうに聞いてきた。
「ああ、もう一ヶ月くらいになるかな、ホトよ。」
トギスは力なく答えた。
月の子が種をまかないと、月の姿はかくれてばかり。トギスのまく種は、流れ星となって見た人の心に根付くだけなのだ。
◇