仮2

you regend!

童話 なんにみえよか 2. 

 ◇

 月の子は産まれてからずっと、みはらし台より種をまいて、みんなを見てきた。何よりの楽しみは、地上のところどころで見える、しあわせの花畑。そこには、いろいろな花がさいた。大きい花や小さい花、ハートや星型の花、百枚も花びらのある花。だけど、この頃はかれてばかり。 

「パンジャを呼んで!」 

 月の子は、おつきのトギスに言うと、トギスはうなづいて、部屋のおくへ消えた。 

 しばらくすると、おくから背が二メートルはある、やせっぽちでほほがこけた男が、にこにこして出てきた。 

 男は右のこぶしをにぎり、こめかみから下ろし、両手の人さし指を向かい合わせて、曲げる仕草をした。(おはよう) 

「おはよう、パンジャ。まあ、べつにどうってことはないんだけど。なんかさ、みはらし台へ行け行けうるさくて。今日もトギスが、『みはらし台でお願いできないかな?』って言ってきてさ。」 

 月の子はトギスのくちまねをして、いつものようにグチグチと言い出した。 

 パンジャは、いつものように、それをにっこりと聞いている。 

「だって、前はもっときれいだったでしょ。お花畑って。」 

 パンジャは、右手の人さし指と親指をのばして、半回転させながら、右から左へ動かし、そのあと、両手の指先をくっつけてひねった。(いろいろな色) 

 うんうん、と月の子はうなづいている。 

 パンジャはしゃべれない。そのため両手を使って会話をする。月の子も少しずつその仕草を覚えてきた。 

 パンジャは、月の子が産まれたその日に、ふらりとここへやって来た。今ではすっかり、何か起きるたびに、パンジャを呼んで、と言うのだ。 

「もう、そんなお花畑は見れないのかな。」 

 月の子はため息をついて言った。ぼんやりと光りながら。 

 トギスとホトは、目をよりめにして、みはらし台から下をのぞきこんでいる。月の子以外は、目をよりめにしないと、しあわせの花を見ることができない。         「花、すくねなあ、ぽづりぽづりだげ。ちいせえのばっかだす。」 

「たねをまいてるのにな。」 

 そう言ってトギスはホトのほうを見た。 

「ハハハハ、よりめんまま、こっちさ見んなよ、笑ってすまうだべ。」 

「き、君にだけは言われたくないな。」 

 トギスは、少しはずかしそうに言った。 

「あ〜あ、どうなるんだべな、これがら。」 

 ホトはみはらし台に腰かけ、足をぶらぶらさせている。 

「なるようにしかならないが、われわれには、みんなのことを見ることはできないし、まあ、見たくもないことが多いのかもな。」 

「そりゃそうだげんど、月の光さ、ねぐなってもいいのがそれで。」 

「しょうがないけど、そういうものだよ。」   

 トギスは少しさみしそうに言った。 

「おめは、いっつもだげんど、冷めでっからなあ。」 

 ホトは、よりめのまま、トギスを見て言った。トギスは笑いをこらえながら、 

「君は種をまくとき、もう少し散らしてまいたほうがいい。もらう人が不公平じゃないかな。」 

 トギスが少しいじわるっぽく言うと、 

「へえ、んだが。ではおめは、種が余ってもなげねで、全部おらのように、ばらまいだほうがいいぞ。もったいねがらな。」 

 ホトはにやにやしながら言っていたが、急にまじめな顔になり、 

「んで、何があったんが?」 

 と小さな声で聞いた。トギスも小さな声で答えた。 

「ああ、月の子が、少しずつうすくなってる気がするんだ。」