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パンジャの部屋から、月の階段を下りていくと、そこには草原が広がっている。まだ緑色のすすきの中、百二十センチの月の子は、二メートルのパンジャと歩いている。遠くに は、小高いおかも見える。
月の子は、いつになくそわそわして、
「ねえ、パンジャ。あのね、ちょっとお願いがあるの。」
と、少し照れながら聞いた。
「あのね、久しぶりにね、その、かたにね、私を乗せてほしいの。かた車をさ。べ、別にどうしてもと言うわけじゃないけど。まあ、本当はもっと小さい子にするもんだし…。」
そう言って、少しほほを赤らめた。
パンジャは、親指を立てて、うんうんとうなづき、しゃがみこんだ。そして、手招きをしてかたを指さした。
月の子は、「やったあ」と小さな声で言って、パンジャのかたに足をかけた。
「い、いいよ。パンジャ。」
パンジャは、ゆっくりと立ち上がった。
あっという間に、月の子の目線は、二メートルの大巨人になった。
「はは、気持ちいい。」
パンジャは、少し歩きながら、わざとこっちにふらふら、あっちにふらふらする。
「わっ、わっ、ははは。パ、パンジャ、あれもやって、あれも。」
月の子は知っているのだ。パンジャかた車のメインイベントを。
おもむろにパンジャは、口を大きく開け、息をすいこみ始めた。すると、パンジャの背が、ぐ、ぐ、ぐ、とのびた。さらにすうと、またまたパンジャの背がのびて、周りの木よりもすっかり高くなった。
月の子は、パンジャの頭にしがみつきながら、すごいすごい、とはしゃいでいる。
パンジャは、ほほを大きくふくらませ、赤い顔をしていたが、ぷふう〜と、息を一気にはき出すと、背もみるみるちぢみ、あっという間に元の二メートルにもどった。
「は〜、ありがとう、パンジャ。」
そう言って月の子は、片手を水平にし、手のこうに、もう片手を垂直に当てて、ゆっくり上げた。(ありがとう)
パンジャは、おやすいごようですと、胸に右手を当て軽く頭を下げた。
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「さあよ、さあよ。つきさかげを、ひとめみい。なにさみえっが、なにさみえっが。さあ
よ、さあよ。
それそれ、そ〜れ、おっとっと。こっちにいっぱいおどすたっけな。あどはこっちさまいで。あれっ、こっちさまぐなが、ねぐなった…。」
バツのわるい顔をして、となりにいるトギスと目が合ったが、ホトは笑ってごまかした。
「とごろでよ、さっき種をもらいさ行ったら、今日の月んこは、きんなより、たしかにうすぐ感じだな。」
「やはりな。」
「どげんごどだ?」
ホトは、その返事を聞くのが少しこわく感じた。
トギスは、少し間を空けてから言った。
「いずれ、消えるということだろう。」
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