you Legend

職業 介護福祉士 

愛しのサッカー狂の人ら

1998年当時は、ちょうどサッカーワールドカップの年でして。

 

ブラジル人っていうのは本当にサッカーが好きで、そこら中で大人も子供もボール蹴ってまして、

貧富の差が激しい国なので、ボール買えないスラムの子らは紙とか布を丸めて蹴ってまして、

それがまあ、ワールドカップですからもう特別なんですよね。国民全員(のように感じた)が始まる前からソワソワしてテンション爆上がりになってまして。

 

で、僕ちょうどブラジル戦がある日、用事があって隣町までバスで行くことになってたんですが、

外出前に伯父さんが、「今日はさ、ブラジルの試合あるから会社とかほとんど休みだよ」と。会社が、「明日はブラジルの試合があるから休みます」と。。

そうですか、でもまあ行ってきますと外へ出るんですが、もう街が静かなんですね。あの騒がしいサンパウロの街が。いないんです、人が。完全に犬のほうが多い、バイオハザードの世界観でして。

伯父さん曰く、「ブラジル戦のある日はみんなテレビ観てるから犯罪も減るんだ」っていう、犯罪者も試合観てるからって。もうそこは逆に稼ぎ時なんじゃないかと思いますが。

 

で、まあバスが一応、相変わらずの適当な時間に来てくれて乗車したんですが、僕と運転手ともう一人運転手の近くにいて、お客は僕ともう一人のおじさんだけでした。

で、そのバスがラジオをガンガンにつけて、もうMAXの音量ですよね、サッカー流してるんですよ。運転手はもうテンション上がっちゃってて、ずっと一人でしゃべりまくってて。

「何やってんだ!」「もっと走れ」、「ちゃんと仕事しろ!」って。まあ、そこはお前だろ、とか僕も心の中で突っ込みながら、あの一応公共機関なんですけども。そんな感じで一台のバスが、人のいない街をただ走ってて、

 

しばらくして、そのお客のおじさんが降りるバス停に来たみたいで。ピンポーンと。かばんをガサガサしだして、さあ降りるぞと立ち上がりかけて、

で、バス停に止まったのですが、ラジオから聞こえてくる試合が、なにやらファウルをもらってフリーキックのチャンスみたいになってまして、

そしたら降りないんですよねおじさん、バスを。運転手もラジオのほうをずっと見てて。。

 

たぶん、数分の時間が流れてました。

まだ蹴らない、なにやらもめてるようで。でもバスも一応、公共機関ですから、ずっと待ってるわけにもいかないじゃないですか、ですよね。でまあ、どうすんのかなって思ってたら、その運転手とおじさんが、一回一瞬目を合わせたと思ったら、バスがそのまま走り出しまして。

おじさんも何も言わずにカバンを座席に戻してまして。謎のアイコンタクトがあってバスがまた走り出しまして。降りないんです、おじさん。自分の降りるべき場所で。

 

そんな、サッカー狂の人らのお話です。

結局その後、僕が先に降りて、運転手とおじさんはそのまま誰もいない路を走り続けて行きました。