仮2

you regend!

南米の空とひまわりもよく似合う

ブラジルにいた頃、

ホームステイ先の家では、でかい犬を飼っていました。犬種は分かりません。

でかい犬でした。

リュウ」という名前の若いかっこいい犬でした。

毎日ご飯をあげてるうちにすっかり慣れてきて、しっぽをフリフリして駆け寄って来てくれます。

名前を呼べば来るし、「おすわり」や「待て」もできるようになりました。

 

ある日、そんなリュウが突然取り乱しているのです。

ホームステイ先は家の周りにぐるりと高い壁があって、その壁と家の間がリュウの住まい&移動スペースになっているのですが、どうやらそこに普段はいない、猫が入り込んでしまったようなのです。

 

普段は高い壁に囲まれているので、壁の上を猫が移動することはありますが、壁の内側に猫が入り込むことはありません。

おそらく壁から落ちたのでしょう。リュウは顔が見る見る変貌し、猫を追います。いままで見たことのない顔で見たことない速さで猫を追います。

猫も凄まじい速さでフェイントを掛けながら逃げます。お互い世紀末のような鳴き声を巻き散らしながら。

猫も必死に引っ搔きます。ですが犬には敵いません。大きい犬なのです。でも犬の額に大きな傷を付けることに成功しました。血が顔を垂れます。

それでもいつか猫ののど元に犬の牙が届きます。そして、その時が来ました。

犬は牙を離しません。猫は鳴き声が漏れています。

 

呆然と見ていたが、ハッと我に返り、「リュウ!!」と低く大きな声で叫びました。外に飛び出て、近寄ります。猫も犬も野生のその目をしています。

一瞬躊躇しましたが、すぐにもう一度「リュウ!!」と低い声を出しながら犬の口の中に手を入れ、両手で口を開けるように力を入れました。

わずかに緩んだ時に猫がボトっと地面に落ちました。

リュウリュウ!」と呼び掛けながら落ち着かせました。徐々にリュウは落ち着きを取り戻していきました。目もだんだんといつもの目に戻っていきます。

 

猫の方を見ると、何とか立ち上がり、玄関の方へ向かって必死に歩いています。

リュウはもう落ち着き、遠くから猫を見ているだけで動こうとはしません。

玄関扉へ向かい、鍵を開けて猫を外へ促しました。猫に近づこうとすると、牙を剥いて威嚇します。

猫は扉を出て階段を倒れそうになりながらも降りていきました。

 

ですが、途中で力尽き、倒れました。

まだ息はあります。

近づいて声を掛けます。触ろうとすると、必死に威嚇をしようとします。

息がゆっくり止まりました。

見た目の出血の量はわずかですが、静かに心臓が止まりました。

 

咄嗟に心臓マッサージをしました。

親指を当て、ピンポイントで。

心臓が動き出します。呼吸もあります。猫はすぐに威嚇しようとします。

ですが、10秒足らずで心臓が止まります。

「がんばれ!」と何度か繰り返します。

非常に、苦しそうです。何度目か、それ以上は手が動きませんでした。

猫は死にました。

 

当時のこの街では、そこら中で犬に殺された猫がいました。

ただ、死んでいるのを見るのと、死んでいくのを見るのではまったく違いました。

 

猫を近くの丘に連れて行き、掘って埋めました。棒を立てて祈りました。

後にそこに日本から持って行った「ひまわりの種」を撒きました。

 

毎年そこにひまわりが咲いていたらと、なんとなく想像し、なんとなく区切りを付けることにしました。

 

 

 

祭壇の決まり事があったのかも知れない。

十年くらい前に、山の調査をしていた時の話ですが、

まあたいてい、人里離れた山に入るんですが、もう何十年も誰も入ってない山とかなんです。で、その日も地元のおじいちゃんが若い時に入ったきり、なんて言われまして。

 

しっかりコンパスと地図、水など一式バックに詰めて山に入って行ったんです。

まあ、順調に調査を進めていって、天気も良く、この山も良いところだなあなどと呑気に思っていました。午後になって、三時くらいにそろそろ帰り道に入らないと遅くなるなと思っていたら、ちょうどちょっとした広場のような開けた場所に出たんです。

 

学校の体育館くらいの広場で、中央付近に何だかありまして近づいてみると、中央には人工的に削って丸くしたようなボーリング玉大の石がゴロゴロしてました。何かを祀っていたような祭壇ですね、小さな。

背丈ほどの木製の鳥居が朽ちて倒れていて、もう半分土に還ってまして。まあでもそういうのって、たまに山に入っていると見かけるので、ここも昔は人が入っていていい山だったんだろうなって思って。

でまあ、そろそろ帰ろうってなったんですが、なんか変なんです。

来た道を帰ってると思っているんですが、全然違うところに出てくるんです。なぜかその広場にまた出てくるんです。で、あれって思っておかしいなと。少し道を変えて行くと、また広場の反対側とかに回って出てきちゃうんです。

出れないんですよ、広場から。

 

突然なぜか迷ってしまって、迷ったと自覚した途端にいきなり、辺りが暗くなってきて、上空では風がゴーゴーいってて、さっきまで雲なかったのに突然荒れてきまして、風で木の葉がすごい舞い上がっていて、なんだかピンポイントですごい荒れている感じなんですよ。

で、目の前の大木の幹が、笑っている顔のように見えて、目と口があってさすがに怖くなってきてコンパスを見たんです、地図と。もうまっすぐ最短で山から出ようと思って見たら、コンパスがぐるんぐるんしてて使えないんですよ。

太陽も消えて、歩いても歩いてもまたその広場に出てきちゃうみたいになってて、たぶんもう30分くらいそこで迷って疲れてきてもう分からんとなって、目の前の広場の壊れた祭壇に行って、何気に手を合わせてお願いしたんですよ。

 

「山の調査に来ましたが、もう帰ります。だから道を教えてください。お願いします」と。すると、空がそれまでめちゃくちゃ暗かったのに、一気に明るくなって風も止んだんですよ。コンパスもピタッと止まって。

すると、さっきもそこから行ってダメだったはずの道を行ったら、今度はスッとそこから抜け出せたんです。少し暗くはなりましたが、無事下山致しました。

 

後日、そこの広場あたりの所有者を調べて、昔の更正図を見てみたらその広場のところは誰の土地でもなかったんですね。存在はしてて囲ってあるけど、空地になってて面積0㎡になってたんですよ。

そういう不思議な場所は昔の山にはたくさんありました。

 

お地蔵さんの手のひらで勝手に喜怒哀楽

昔、仕事で山の調査をしていた時ですが、

ある村の集落の山でして、険しいけど標高は300メートルくらいの山道(獣道に近い)を歩いていたら、道脇から何だか人工的な石が地面に少し出てて、

何だろう?って思って、何気にそれを掘ってみたんです。持っていた小さなシャベルで。

それで掘っていくとどうやらお地蔵さんみたいで。

お地蔵さんが出てきちゃったんです。お顔が出てきて、さすがにここまで来たら掘り出さなきゃってなりまして、掘ったんですよ。

 

まあ、普通サイズの、普通サイズって言っても分かりずらいかも知れませんんが、よくあるタイプと言いますか、お地蔵さんでした。

横向きになって少し頭が表面に近く、胴体のほうが深く少し斜めに埋まっておりまして、ただ土は割と掘りやすく、まあ掘りまして立てまして、持っていたタオルで綺麗に拭いて、一度山を下りて近くの商店でワンカップを買ってきてお供えしたんですよ。

手を合わせて、、で、これでいいことしたなって感じで、その日の調査を終えて山を下りて会社に戻る途中で、ちょっと飲み物を買おうかなとお店に入りました。

そこで、頭がつるっつるの坊主頭のめちゃめちゃ怖そうな人とちょっとぶつかってしまい、因縁吹っ掛けられそうになって、もう心の中では、もうお地蔵さーん!ってなっていて、あれはやっぱり掘り出しちゃダメなやつだったのかなとか思って。

でも幸いそれ以上揉めることなく、事なきを得て、ああ良かった~と、まあいいやと会社へ戻り仕事して、帰ったんですね。

 

ちょっと遅くなりまして家への帰り道、辺りは暗くて、まあ田舎なんで山道を帰るんですが、突然車の目の前にタヌキが飛び出てきて、たまに出るんですよね、田舎の道は、テンとかハクビシンみたいなのが。

で、ハッとしてハンドルを切ったんです。山道って、道路わきに土側溝ってあるじゃないですか、水の流れる、そこにハマると車が出れなくなっちゃうんですけど、その時たまたま、車は土側溝をちょっと越えてすぐの所で止まったんです。

 

あ~良かった~、ハマらなかったよと思い、車の外に出てペンライトでタイヤの所を見てみたら、大きな丸っこい石が、タイヤが通ったところの土側溝にすっぽりハマっていて、自分の車はその上を通ったから、タイヤがハマらずに済んだことが分かりました。

もう奇跡的で心の中では、あのお地蔵さんだ!って思って、お地蔵さんありがとうございます。って、でもまあ一回、怖いつるつるな人とぶつかって、それで疑ったりしてごめんなさいって言って、良かった良かったと家に帰ったんですが、

 

よくよく考えたら、タヌキとか怖い人とかさえ出てこなければ良かったわけで、うーん、やっぱりお地蔵さん、嫌だったのかなあと思った、勝手に喜怒哀楽の一日でした。

レゲエとレントゲンとターミネーター

ブラジルに行ってまだいくらも日がたってない頃、

交通事故に遭っちゃって、、こっちが歩きで向こうが車で。でもまあ軽くぶつかっただけだったと思うんですけど、、まあいかんせん、その時の記憶が少し飛んでるんですが。

 

あとで考えると、どうやらあっちって車線が逆なんですが、それで勘違いしてて、何か考えながら道を横断するときに、確認不足で渡っちゃったんじゃないかなって思ってはいるのですが、いや、わかんないですよ。記憶飛んでるんで。どうやって当たったかは。

 

その時の当たった時の記憶はないのですが、意識が戻る時からは覚えていて、なんかその時に全身に電気がビリーッて駆け抜けて、意識が戻るんですけど、目を開けると警官らしき人が僕の顔を覗いていて、周りには野次馬が結構いて、なんかいろいろと言ってるんですよ。

 

最初に僕も時間を見ようと、当時は携帯なんてないですからバックに入れてた時計を探したら、周りに持っていたものがぶつかった衝撃で全部散らかってて、時計もその近くに落ちてて、まず見たんですよ。

そしたら最後に記憶していた時刻と大体30分くらいの空白の時間があると思って、でもまあ、血もほとんど出てないし、まあなんとか立てそうだなとか思ってたら、その警官が、大丈夫かみたいなことを聞いてきて、なんとなく言ってることはわかる内容で、まあOKとか言ってたら、痛くないかとか動けるかとかいろいろと聞いてくれるんですが、基本めっちゃいい人なんですよ。

超こわもてですけどね。めちゃめちゃガタイが良くて、背が非常に高く、しかも腰に銃があるんですが、日本の警官の銃ってまあ何か小さい感じじゃないですか。全然違くて、マグナムみたいなのを腰に付けてるんですよ。もう絶対かなわないって感じのです。

 

でその事故を起こした相手も居てくれてて、逃げずに。で、心配してくれてるんですよね。なんだか偏見なんですが、犯罪などの多いブラジルでそんなだから逆に自分が心配になってきて、大丈夫かな俺、みたいな感じになってまして。

 

その警官がてきぱきとしてて、僕もブラジルに来たばかりでしたし、しかも一人で行動してた時で正直不安だったんです。警官が来て、病院へ行こうと言ってくれて、半ば無理やりパトカーに乗せてくれたんです。ブラジルのなんかでっかいパトカーに乗せてくれ、でっかい病院まで行ってくれたんです。

 

病院着いて、とりあえずレントゲンだとなって、そしたらその警官が、じゃあ俺はそっちで待ってるよって言って、椅子に姿勢をビシッっとして座ってるんですよ。サングラスして、ごっつい身体で窮屈そうに。もうほとんど見た目はターミネーターなんですよ。

 

でまあ、レントゲン室に入るんですが、でっかい病院なんですが、なんか黒人のすごく乗りのいい先生で、なんかレゲエを結構なボリュームで聞いてて、すごい乗ってるんですよ。大きい病院なんですが。

そしたらそのドレッドヘアのレゲエの先生が、「じゃあ、そこら辺に立ってー」みたいな感じでレントゲン撮るんですが、写真見て、「ああ、うんうん、大丈夫じゃん?」みたいな感じで軽く言ってくれて、で、本当かよっ、って内心思いながらも良かった良かったと、警官の元へ戻って報告しました。

警官もほぼ無表情ですが、なんだか良かったと言ってくれてるような雰囲気でした。その後ホームステイ先へ連絡もしてくれ、おばさんが迎えに来るまでいてくれた警官。その節は、本当にありがとうございました。

 

その後日本に帰ってきて、数年後、首が痛くなってきて病院行ったら、頸骨が少し曲がってますねぇと。なんか強い衝撃ありませんでしたか。って言われ、いや数年前に事故に遭って、でもレントゲン撮って大丈夫って。。。(レゲエの先生に。。)

「うーん、そう?大丈夫じゃなかったかなー(苦笑い)」

今もたまに痛くなる首。

でもいい思い出のレゲエとレントゲンとターミネーター

 

 

 

 

高速道路で捕まるけど、、

もう昔の話で、

ブラジルでの高速道路での一幕ですが、

 

日本にいると中々感じませんが、向こうってちょっと隣の市まで行こう、ってなると、大体こっちだと1時間とかあれば、大概隣市くらいなら行けると思いますが、向こうはサンパウロ州だけでも日本と同じ面積くらいあるので、隣市まで4~500キロ離れていたりするんですよ。まあ遠いんです。

 

当時私が住んでいたジアデーマという街から隣のバウルーという市まで行こう、って話になって、伯父さんが運転者で私は助手席でした。

道路には日本車もいっぱい走っているんですが、いっても昔の中古車ばかりでして、人気なんですよね、壊れにくくて。日本ではもうあまり見かけないくらいの古い車がガンガン走ってるんです。

日系人もたくさんいるんですが、その人たちは、割と皆さん大きな車に乗っていて、ほとんどがブラジルの結構いい車なんですよ。すると、やっぱりいいやつなので壊れずらいんですね。伯父さんもそんなのに乗っていて、かっこいいなぁと思っておりました。



高速道路に乗りまして飛ばして行くんですが、高速は本当にドイツのアウトバーンじゃないですけど、みんなガンガンにスピード出すんですよ。

どストレートな道が、何十キロって続いて、道も広くて、景色もほとんど変わらないっていう。周りには主に蟻塚が広がっていて、もうそれは何百何千という蟻塚ですね。1メートルとかそれ以上の大きな蟻塚がずらっと並んでいるんです。荒野に。ちょっと怖いくらいありましたね。

 

伯父さんはあまりスピードを出す方じゃないのですが、それでも130とか140キロくらいですかね。そのくらいで走っていて、たまにその脇をヒュンと走り抜ける車がいたりとそんな感じでした。

いくらか進んだ時、ずっと前方にパトカーらしきものが見えました。伯父さんも「あ~、今日いるのか」って言って、案の定警官に止められたんですよ。でもその横をさらに早いスピードで抜けていく車もいます。なんで止められたのかなっていうくらいなんですよ。

伯父さんも警官となにやら話してて、だんだんとヒートアップしてきて、なんだったら言い争っているんですね。はた目には。

結局いくらか渡して、切符なども切られずに、免許証なども見せずに終わってまた走り出したんです。

賄賂ですかね。と思い、聞きました。

 

伯父さん曰く、やっぱりブラジルの警官は給料が安いからこうやってお金を稼ぐんだと。お金を持ってそうな日本系な人の車を止めて、適当にスピード違反とかなんちゃらで捕まえて、点数と罰金がこのくらい掛かるけど、私にいくらか払えば見逃すよ、というものだったそうで。理不尽極まりないですが、言っていることは至極単純で。

まあ、伯父さんも伯父さんでその賄賂をギリギリまで値切っていたみたいで。警官がいくらと言って、伯父さんがそれじゃ高いって言って、もう少し安くしろって言って、警官がじゃあいくらならどうだい?ってなって、よし。っていう。

そんな逞しい人たちのお話です。

 

浜辺サッカー盲点とは、

1998年当時、ブラジルサンパウロにおりました。

 

この日は、サントスの海まで友人と車で出掛けたのでした。

 まずメトロに乗って途中まで行くんですが、私もメトロ初体験でして、乗ったらブラジル人のお母さんと息子さん、息子さんは小学校低学年くらいでしたか、お二人が近寄ってきて、何かを手渡してきたんですね。何も考えず手を出して受け取ったら、シールなんですね。ヒーロー物の。結構大きめのビックリマンシールよりも大きめの感じの。

 

何だろ、くれるのかなと思ってましたら、友人が「それ受け取ったら降りるときにお金払うんだよ」と教えてくれました。「だからほとんどの人は受け取らないか、降りるときに返すんだよ」と。返せるシステムっていうことで安心はしましたが、せっかくだからと日本円で100円程度の紙幣を払いました。親子は喜んでましたね。安いパンなら一個10円くらいでしたから。

そういえば、前日はスーパーマーケットに行くと、じゃり場の駐車場に着くと子どもらがわらわらと出てきて、「車を見ておいてやるから駐車代をちょうだい」と。これもあるあるで、車上荒らし防止の子どもたちの貴重な資金源になる仕事なんですよね。貧困で稼がないと暮らせない子どもたちがたくさんいるんですよね。まあ、逆にお金を渡さないといつの間にやら車がボコボコになってるそうで。

ようやくサントスの海に着くと、砂浜が長いというか、広大な砂浜があってそこら中でサッカーをしています。

私もこれまでサッカーを大好きでやってましたので、こちらも調子に乗って若者のグループに一緒にやろうとミニゲームを始めました。

私たちのほうが幾分上手だったみたいで、ブラジル人が褒めてくれるんですね。「お前は日本人だけどサッカーが上手いな、またやろうな」と親指を立ててくれました。

今までサッカーしてきて最高にうれしい一つの瞬間だったんですけど、なんか痛いな~と足を見たら血だらけで。素足で蹴ってたんですが両足の親指が血だらけで。よくよく見たら、両足の親指の爪がどちらもほとんど取れかけてパカパカしてるんですね。

 

嬉しいやら痛いやらで、砂と血を海水で洗い、浜辺にいた見知らぬおばちゃんから、たまたま持ってた小さなハサミを借りて爪を無理やり切りました。それはそれは、痛かったですねえ。

適当に切ったもので、その後10年くらいはまともに爪が生えなかったですね。

今はすっかり元通りになりましたけど、あれですね、爪剝げたらなんだかんだ病院に行くのがいいみたいですね。

 

愛しのサッカー狂の人ら

1998年当時は、ちょうどサッカーワールドカップの年でして。

 

ブラジル人っていうのは本当にサッカーが好きで、そこら中で大人も子供もボール蹴ってまして、

貧富の差が激しい国なので、ボール買えないスラムの子らは紙とか布を丸めて蹴ってまして、

それがまあ、ワールドカップですからもう特別なんですよね。国民全員(のように感じた)が始まる前からソワソワしてテンション爆上がりになってまして。

 

で、僕ちょうどブラジル戦がある日、用事があって隣町までバスで行くことになってたんですが、

外出前に伯父さんが、「今日はさ、ブラジルの試合あるから会社とかほとんど休みだよ」と。会社が、「明日はブラジルの試合があるから休みます」と。。

そうですか、でもまあ行ってきますと外へ出るんですが、もう街が静かなんですね。あの騒がしいサンパウロの街が。いないんです、人が。完全に犬のほうが多い、バイオハザードの世界観でして。

伯父さん曰く、「ブラジル戦のある日はみんなテレビ観てるから犯罪も減るんだ」っていう、犯罪者も試合観てるからって。もうそこは逆に稼ぎ時なんじゃないかと思いますが。

 

で、まあバスが一応、相変わらずの適当な時間に来てくれて乗車したんですが、僕と運転手ともう一人運転手の近くにいて、お客は僕ともう一人のおじさんだけでした。

で、そのバスがラジオをガンガンにつけて、もうMAXの音量ですよね、サッカー流してるんですよ。運転手はもうテンション上がっちゃってて、ずっと一人でしゃべりまくってて。

「何やってんだ!」「もっと走れ」、「ちゃんと仕事しろ!」って。まあ、そこはお前だろ、とか僕も心の中で突っ込みながら、あの一応公共機関なんですけども。そんな感じで一台のバスが、人のいない街をただ走ってて、

 

しばらくして、そのお客のおじさんが降りるバス停に来たみたいで。ピンポーンと。かばんをガサガサしだして、さあ降りるぞと立ち上がりかけて、

で、バス停に止まったのですが、ラジオから聞こえてくる試合が、なにやらファウルをもらってフリーキックのチャンスみたいになってまして、

そしたら降りないんですよねおじさん、バスを。運転手もラジオのほうをずっと見てて。。

 

たぶん、数分の時間が流れてました。

まだ蹴らない、なにやらもめてるようで。でもバスも一応、公共機関ですから、ずっと待ってるわけにもいかないじゃないですか、ですよね。でまあ、どうすんのかなって思ってたら、その運転手とおじさんが、一回一瞬目を合わせたと思ったら、バスがそのまま走り出しまして。

おじさんも何も言わずにカバンを座席に戻してまして。謎のアイコンタクトがあってバスがまた走り出しまして。降りないんです、おじさん。自分の降りるべき場所で。

 

そんな、サッカー狂の人らのお話です。

結局その後、僕が先に降りて、運転手とおじさんはそのまま誰もいない路を走り続けて行きました。